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2023年01月17日
動物園獣医の仕事 検査編その2 糞便検査
今回は「動物園獣医の仕事その2 糞便検査」です。
糞とか便とかを連呼する内容になりますが、獣医の仕事とはそういうものなのでご了承を。
綺麗な話ではないので、お食事中の方にとっては微妙な内容かもしれません。前回同様に、「へー」くらいの気持ちで読んでいただければ幸いです。
「〇〇の便がゆるいからちょっと診て」と飼育員さんから依頼されることもありますし、便に異常がなくとも、食欲不振などの症状がある場合は「便検したいので、採便お願いします」と獣医から依頼することもあります。
糞便検査(尿検査もですが)は検査サンプル採取が動物にとって痛みのない「非侵襲検査」に分類される点において、血液検査より優れた検査かもしれません。
やっぱ採血は痛いですもんね。頻度は血液検査の次くらいに高く、平均すれば1日1便くらい。
たまに、検査室デスクが色々な動物の便であふれることもあります。
そんな日は「今日は便検査祭りやね」と獣医同士でしょうもないことを言いながら糞便をこねくりまわしています。さて、具体的な確認ポイントは「頻度・量・形・色・匂い・消化の程度・内容物・微生物のバランスと量」などです。
そして、動物園獣医の宿命ですが、やはり頭を悩ますのは「動物種による違い」です。
王子には哺乳類・鳥類・爬虫類で約130種の動物がおり、それぞれ便性が違います。
また種によっては、2種類の便(盲腸便と通常便)をする動物もいます。
一番困るのが、便の中の微生物達の違いです。微生物Aは動物Bにとって害はないけど動物Cにとっては有害、ということが多々あります(例えば、肉の生食で話題になったO-157は牛にとって害は少ないですが、人間にとって有害です)。
そろそろ文字だけではつまらないと思うので、最近の事例を紹介します。
とある動物(げっ歯類)が下痢をしていた時の検査で便中にいた微生物です。
顕微鏡で見てみると。。。 (動画)
「ん?誰これ?」
というのが最初の感想です。
原虫(微生物の一種)というのは判断出来ますが、今まで見たことがありません。必死になって調べて正体がわかりました。
「Eudiplodinium maggii(反芻獣の第1胃内の繊毛虫)」。
正直、発音すらわからん。。「んー、今回の下痢の原因なのか?なぜ反芻獣の微生物がココにおるん?」
どの獣医もわかりません。そんな時は同種他個体の正常便を検査し、その微生物の有無と量を確認します。
結果的にEudiplodinium maggiiさん、悪者ではありませんでした。
疑ってすいません。
まだまだ野生動物は分からないことだらけです。こんな感じで王子の獣医達は糞便の匂いが漂う検査室で頭を悩ませながら日々検査をしています。
そういえば、前副園長はウンコをこよなく愛すと自負しておられた稀有な方でした。
ある日、ウマグマ(マー)の芸術的な糞(色々な意味で)の写真が撮れたので、確認いただくと喜んでいただけました。良い思い出です。*正常な時の動物達の便を観察しておくのも獣医の大事な仕事です。
では今回はこのへんで。
次回は尿検査について紹介していこうと思います。王子の獣医
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2022年10月24日
動物園獣医の仕事 検査編その1 血液検査
はじめまして。
これから王子動物園の獣医の目線から定期的にブログを書かせていただきます。
せっかくなので、あまり表に出ない動物園獣医師の仕事を色々と紹介していければと思います。
今考えてる内容は検査、器具、診療方法などです。
あまり肩に力をいれず書いていきますので、「ふーん」くらいの気持ちで読んでいただければ幸いです。
てことで、まずは検査について紹介していきます。
今回は皆さんも健康診断で経験することのある「血液検査」を紹介します。
血液検査は動物の体調不良時のみならず、健康診断時にも実施します。
ほぼ毎日、何かしらの動物の血液検査をしています。
ここで、獣医を悩ませてくれるのが、動物による違いです。
王子動物園は哺乳類・鳥類・爬虫類を飼育しており、その種数は約130にもなります。
哺乳類・鳥類・爬虫類の血はみんな赤色なのですが、顕微鏡でみると全然違います。
色々な違いがありますが、今回は違いが分かりやすい「赤血球」に注目してみましょう。
赤血球というのは体中に酸素を運ぶ役割をもった細胞です。
その役割は王子動物園の130種の動物達で違いはありません。
じゃあ形も同じなら検査する獣医も1つの知識で対応出来るのでうれしいのですが、
残念ながら(動物は悪くないです)違います。
百聞は一見に如かずということで、実際の顕微鏡写真を紹介します。
まずは哺乳類(コアラ)の血液を見てみましょう。
次に鳥類(鶏)はこんな感じです。
最後に爬虫類(カメ)を。
どうでしょう?
鳥類と爬虫類は似てますが大きさが違います。
哺乳類にいたっては完全に別物。
もちろん赤血球だけでなく、他にも様々な違いがあります。
更に、同じ哺乳類・鳥類・爬虫類の中でも、種によって差がある項目があります。
更に更に、同じ種の中でも、個体差が、、、
更に更に更に、同じ個体でも、発情期の有無によって差が、、、
動物園での血液検査って奥が深いです。
深すぎてまだまだ底が見えません。
では、今回はこのへんで。
次回は糞便検査について紹介していこうと思います。
王子の獣医