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2025年07月24日
動物専門員の日常#19 フラミンゴの繁殖管理~産みの親ではなく、仮親をたてる~
先日のブログでお知らせした通り、今年もベニイロフラミンゴのヒナが誕生をしました。
実は、そのあとにこっそりと【6月24日】と【7月10日】に、それぞれベニイロフラミンゴのヒナが1羽ずつ孵化しています。
【6月24日】と【7月10日】に誕生したヒナは特別な経緯があったので、
その裏話を少しアカデミックに紹介したいと思います。
―フラミンゴたちの子育て事情―
王子動物園ではベニイロフラミンゴとヨーロッパフラミンゴの2種類を同じ場所で混合飼育しているのですが、その個性はさまざまです。上手く産卵・抱卵してくれるペアもいれば、適さない場所で産卵してしまい、卵のまわりを困ったようにうろうろしていたり、良い場所で産んだはずなのに途中で抱卵を放棄したり、なかなか一筋縄ではいかないのが現実です。
実は【6月24日】と【7月10日】に誕生したヒナにはそれぞれにハードルがありました。
ひとつはこれまで、孵化に成功したことがない場所(通路側)で産み落とされた卵でした。その場所は来園者との距離が近く、柵越しとはいえ、人の気配が絶えません。飼育員も掃除のためによく通る場所のため、安全に育てるには不安が残る場所です。そしてもうひとつの卵は親鳥が卵への関心をあまり示さずにいました。巣のなわばり争いも激しく、他の個体から守り切ることができない状況でした。
このまま置いておくと、どちらの卵も無事に孵化させるのは難しい…。
人工育雛という方法もありますが、十分なケアを継続できるか、育ったあとのヒナが群れに戻れるのか、といった課題もありました。
そこで、選んだのは当園で過去にも成功事例のあった
「別のペアで仮親を立てる」という方法でした。
―仮親を立てる―
いったい、どのようにフラミンゴ自身はヒナを認識しているでしょうか?
実は産み落とした卵を個別に認識しているわけではありません。基本的にフラミンゴたちは守っている巣を認識しているだけだと言われています。そして、孵化する少し前に卵の中でヒナが鳴き声を発するのですが、親鳥とヒナの間で「音声のコミュニケーション」をとり、孵化後もお互いを認識することができます。フラミンゴのペアが抱卵を始めてから孵化するまでの日数は平均で28日前後と言われており、その間にそっと卵を入れ替えれば自分の卵だと認識してくれる可能性があります。 今回、抱卵・子育てが得意なヨーロッパフラミンゴのペアに仮親になってもらい、ベニイロフラミンゴが抱卵を放棄した本物の卵を託すという取り組みを実施しました。ヒナの最初の嘴打ち(はしうち)の瞬間を見たときには、嬉しかったです。その後も仮親が子育てにしっかりと取り組んでくれて、群れも安定しているため、ほっとしています。
―仮親を立てることはアニマルウェルフェア(動物福祉)につながるのか?―
動物を飼育していく上で、アニマルウェルフェア(動物福祉)は欠かすことはできません。アニマルウェルフェアとは“動物たちが身体的及び心理的に幸福であること”を意味し、それは科学的な根拠に基づいて評価する必要があります。今回、繁殖制限中のヨーロッパフラミンゴに別種であるベニイロフラミンゴの卵を抱かせて、抱卵・子育てに取り組みました。抱卵・子育てはフラミンゴ自身が大量のエネルギーを使うため、仮親ペアの選び方や体力的に負担になりすぎないかなどの見極めが重要です。しかし、抱卵・子育てが得意なヨーロッパフラミンゴのペアにとっては、本来の行動を引き出すことができるため、精神的な充足や自然な子育て行動を維持できる可能性があります。ヒナ誕生ということに加えて、繁殖制限がある中でも、今を生きているフラミンゴたちへのアニマルウェルフェア向上にもつながることが期待されます。
―限られた条件の中で少しでも良い方法を選ぶ―
フラミンゴたちのため、そして未来の動物園のために、「今できるベストは何なんだろう?」と担当者はいつも頭を悩ましています。時には「フラミンゴを騙しているのでは?」と純粋に質問をされ、複雑な気持ちになることもあります。未来にベニイロフラミンゴという種を確実に残していくために、アニマルウェルフェアを考えながら環境づくりに取り組んでいこうと思います。
・・・とお堅いはなしは、ほどほどにして
今回、無事に育ってくれて本当によかったです。
今の時期にしか見ることのできないふわっふわなフラミンゴのヒナにぜひ会いにきてくださいね。
動物専門員 あお & 飼育員 まーくん
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2025年06月10日
動物専門員の日常#18~今年もこの季節がやってきました。フラミンゴのヒナ誕生~
今年もこの季節がやってきました。フラミンゴのヒナ誕生です。
先日、Xでも紹介したようにベニイロフラミンゴのヒナ1号(4/29)と2号(5/10)が誕生し、親鳥のもとですくすくと成長をしています。
▼ベニイロフラミンゴのヒナ2号_生後3日目の様子
王子動物園のフラミンゴ飼育の歴史は長く、
1983年から毎年フラミンゴ池での自然繁殖に成功しています。40年以上続く、歴代孵化記録も無事に更新されました。
もちろん繁殖の記録を更新することは1番の目的ではありません。
まず大切なのは「フラミンゴたちが健康にのびのびと過ごすことができること」
たとえ繁殖記録を更新しなくても、フラミンゴたちが元気だったら「そんな年もあるよね」とホッとするだけなのですが、それでもやっぱり担当者としてはこの時期はそわそわしてしまいます。
今回のブログではそのような中で迎えた、1卵目のベニイロフラミンゴのヒナ誕生についてあれこれと書き連ねたいと思います。
今年初めての産卵は3/29でヨーロッパフラミンゴのペアでした。これは例年通りの傾向で、最初にヨーロッパフラミンゴの産卵ピークを迎え、そのあとにベニイロフラミンゴの産卵ピークに移り変わっていきます。
▼ヨーロッパフラミンゴ最初の産卵と親鳥の威嚇の様子
「この時期からヨーロッパフラミンゴのペアの産卵ラッシュがはじまるからよく見ておいてね」とベテラン飼育員に言われ
楽しみにしていたら、その3日後にはフラミンゴ島にたくさんの卵がありました。産卵シーズンのはじまりです。
▼フラミンゴ島のたくさんの卵
そのような中・・・なんとベニイロフラミンゴのペアも産卵をしたのです。
これは、例年より1か月も早い傾向だったので、驚きました。
「まぁ、そんな年もあるよね」と思いつつ、動物とはほんとうに予測ができないものです。
フラミンゴたちは1産1卵で抱卵と子育ては、基本的には同じペアが行います。抱卵期間(産卵してから孵化するまで)は一般的に27~30日とされており、その間オスとメスが交代で誕生まで卵を温めつづけます。
とはいえ、これはあくまでひとつの目安。
卵自体がもともと無精卵(未受精卵)であったり、何らかの理由で卵の中で発育が止まってしまい残念ながらヒナが孵らなかったりします
よく観察をしているとフラミンゴたちにもさまざまな事情があることも分かりました。
オス、メス抱卵の交代をするときにうっかり、自分の卵を割ってしまう個体や無意識に自分の体重を卵にかけすぎてしまう個体、他のペアが守っている卵を横取りしようとする個体やわざと攻撃して巣から転がり落とす個体など―――。
ヒト同士でもいろいろとあるように、フラミンゴ同士にもいろいろあります。
▼フラミンゴ自身の体重で破卵した卵
(担当者ができることは少ないのだけども・・・)ベニイロフラミンゴのペアが抱卵に集中できるように、ヨーロッパフラミンゴのペアの卵は偽卵に交換をし、横を通るときや掃除をするときにはできるだけ刺激をしないようにしました。
最初の孵化は4/29の朝8時すぎでした。
いつも通り、獣舎の確認をし、巣に親鳥がちゃんと座り込んでいるのをみて
まだ孵化していないことを確認して・・・と思っていたら、
親鳥の羽根からひょっこりと嘴がみえました。
「え、これ本物?産まれてる」と
めちゃくちゃ、びっくりしました。
▼フラミンゴのヒナ誕生
▼誕生直後_4/29 11時頃のフラミンゴのヒナ
無事に誕生してくれてひと安心です。
そして親鳥がフラミンゴミルクを与える様子も確認できました。
▼フラミンゴミルクを飲む様子
フラミンゴをはじめ鳥類の成長は日に日に、目を見張るものがあります。
中でも印象的だったのは生後6日目に初めて巣から離れたときです。
通常、ヒナは孵化5~7日後に自力で巣から離れ始めると言われています。
親鳥は巣に居続け、ヒナを認識できるのですが連れ戻すことを物理的にはできません。
(例えば、ネコのようにヒナを口にくわえて運ぶことはできません)
なので、ヒナ自身が自力で巣に登り戻る必要があるのです。
周りにフラミンゴのペアがたくさんいる中で戻れるか、心配でもし閉館時刻までそのままだったら手助けをしようと思っていたのですが、私の心配もよそにあっさりと30分後には巣に戻っていました。たくましすぎます。
▼生後6日目に初めて巣から離れるヒナ
▼親鳥がヒナから離れ戻る様子
生後10日を過ぎたころ、親鳥がヒナのそばから離れる様子が見られました。
親鳥がエサを食べる間など、ほんの少しの時間をヒナは1匹で過ごします。
(動画の中ではほんの小さな鳴き声を発していますが・・・)
実はフラミンゴは、抱卵中に親鳥と卵内のヒナの間で「音声のコミュニケーション」をとることが知られています。孵化する前に十分に親子の絆ができているため、誕生後もヒナと親鳥がお互いを認識することができるのです。
さて、6月を迎えて、現在2羽のベニイロフラミンゴのヒナが成長をしています。
最近は200羽いる群れの中で、オキアミを食べる様子やよりたくましくなった脚で親鳥と並んで片足立ちをする様子なども見ることができます。
王子動物園の風物詩
フラミンゴのヒナにぜひ会いにきてくださいね。
動物専門員 あお
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2025年04月23日
動物専門員の日常#17~フラミンゴちょっと、どきどきの1週間~
みなさん、こんにちは。
今日はみなさんに、ちょっと、どきどきするお知らせがあります。なんと・・・ベニイロフラミンゴの今年の最初の孵化予定日が4月29日(火)となり、とうとう1週間を切りました。
もちろん、あくまで予定日なので孵化の予定が前後することやうまくいかないことなどもあります。
例年、ベニイロフラミンゴの孵化が始まるのは5月の終わりごろ。
それが今年は、なんと1か月も早まっているんです…!しかも、現在4つの卵をあたためています。準備もいつもよりバタバタ。
担当者はもう、内心どきどきです。
王子動物園のフラミンゴ飼育の 歴史はとても長く、
1983年から連続で毎年、このフラミンゴ池で繁殖に成功をしてきました。このフラミンゴ池で生まれ育ったフラミンゴは、なんと650羽以上!国内実績ナンバーワン!
これは本当にすごい数字なのです。
・・・と同時に、これって担当者にとってはとんでもないプレッシャーだったりします。
「自分の代で途切れさせてしまったらどうしよう・・・」って(;’∀’)長年の実績があるとはいえ、「いつも通りにやれば大丈夫」ということは全くありません。
島の土を起こすタイミング、掃除の仕方、餌の与え方、ガイドをする場所など──
そのひとつひとつが群れ全体に影響を与えるので、ものすごく神経を使います。自分たちではコントロールできないどうしようもないこともたくさんあります。
フラミンゴは一般的に、神経質で臆病な動物だと知られており、ひとりぼっちよりも周りに仲間が多ければ多いほど安定する動物です。
観察していると、1羽1羽の様子というよりも、群れ全体の空気感。
気分の上がり下がりが伝わってくるような、そんな感覚になります。
最近、池の大掃除のあと破卵(はらん)がありました。
「自分のやり方が悪かったからでは・・・」と考え込んだり。
ともすれば、見ていないうちに気づいたら産卵することもあります。
「産卵する瞬間に立ち会いたいな・・・」と思ったり。
神経質で臆病な動物はむしろ担当者の方であって、
王子動物園のフラミンゴたちはなんだか胆力にあふれ、雄々しく見えることもあります。
今年も、いのちが誕生する瞬間に立ち会えると信じています。
動物専門員 あお
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2025年02月26日
動物専門員の日常#16 これがええねん!フラミンゴ島の土起こし
先日、フラミンゴ池の中央にある陸地(通称:島)の土起こしをしました。
王子動物園のフラミンゴ飼育の歴史は長く、1977年に国内で初めてフラミンゴの人工ふ化に成功をし日本動物園水族館協会から繁殖賞を受賞しています。
さらに、1983年から昨年まで41年連続でフラミンゴの繁殖に成功をしており、今年も期待がかかります。先月から、求愛ディスプレイがますます盛り上がりをみせ、交尾をする姿や土壌をくちばしで気にする様子、縄張り争いなども確認ができました。
▼交尾の様子(一瞬の撮影だったので、ぶれています)
▼土壌をくちばしで気にする様子
フラミンゴたちからのたくさんのサインをキャッチして、
ベテラン飼育員とも相談をし「そろそろ土起こしの季節だね」ということで、島の土起こしをしました。島を耕してみると底の方の土壌は灰色~黒色となり、柔らかさや匂いも違います。 一般的に排水性が悪く、酸素が不足しがちな土壌は黒さび状態になることが知られています。 農作物を育てたことのある方なら、酸素が少なくて凝り固まった土はよくないってこと、感覚的に分かりますよね。 このような土壌だと農作物は酸欠状態に陥り、上手く育つことができません。
でも、フラミンゴたちにとってはこれが逆に理想的な状態! この土壌こそが、ぴったりだとか。
スコップを片手に、
「これがええねん!!」の言葉を聞き、底の土を表面に出すように耕しました。
他にもフラミンゴが好むちょっとしたコツやついついやってしまいがちだけど、やらない方がいいことなども
教えてもらいながら、えっちらおっちら完成です。
▼ベテラン飼育員と一緒に島を耕す様子
https://youtube.com/shorts/arX0GPu-tkU?si=UVpiUC9tLGnoAfyG▼島の土起こし後のフラミンゴの様子
毎年、4月下旬には最初の産卵が始まり、親鳥にあたためられた卵は28日前後で孵化しますので
順調なら梅雨入り前には最初のヒナが産まれます。今年もヒナの誕生が楽しみです。
▼昨年、誕生したベニイロフラミンゴのヒナ
動物専門員 あお
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2024年12月19日
動物専門員の日常#15 冬の求愛ディスプレイ~フラミンゴたちのダンス~
このあいだまで暑くて暑くて、獣舎へ氷を運ぶために走りまわっていたのに、いつのまにか寒くなり、ホースの蛇口をひねる度に冷たさが肌を刺すようになりました。
いよいよ、冬が来ました。
あっという間に1年が過ぎてしまう・・・と毎年、つぶやいているような気もするのですが動物たちにとっては違うようで、季節の移ろいに敏感です。
そのなかでもフラミンゴたちの求愛ディスプレイが日増しに盛り上がりをみせ、群れで舞い踊る姿がとても迫力があり美しいため、今日はそちらを紹介したいと思います。
現在、王子動物園では約200羽のフラミンゴを飼育しています。薄いピンク色の羽根が特徴的なのがヨーロッパフラミンゴで赤い羽根が特徴的なのがベニイロフラミンゴです。
11月中旬の気温が急に下がったころから、求愛ディスプレイがはじまりました。
最初はぽつぽつと数羽程度だったのが、日増しに10羽、20羽、30羽と。多いときには数えるのが難しいぐらいのフラミンゴたちが一斉に踊ります。
代表的な求愛ディスプレイは“旗振り”、“敬礼”、“行進(マーチング)”と呼ばれる3種類があり、それらが組み合わさって、オスもメスも一緒に参加し集団で踊ります。
▼旗振りと敬礼
“旗振り”はまるで旗をふるように、自分の首を左右に振る動作のことです。スピードよく、切れよく一斉に動かします。
“敬礼”とは翼を勢いよく広げる動作です。首の向きは上に向かって鳴きながら敬礼をするタイプと首を水平に向かって行うタイプがいます。
▼行進(マーチング)
“行進(マーチング)”は言葉の通り、一つの方向に向かって集団で歩く動作です。速足となり首を少しきゅっと傾けます。この動作が始まるきっかけは、あまりよく分からないのですが“旗振り”と“敬礼”がひと段落ついたときに一斉に起こることが多いです。
ちなみに私の1番のお気に入りなのは、“行進(マーチング)”の動き
首をきゅっと傾けて速足で歩く姿、ユニークで素敵ではないですか?
恋のシーズン到来はこれからが本番です!
例年1~3月にかけてその熱はピークに達し、徐々に鳴き声は甲高く力強さを増し、羽根の色合いも艶やかに燃え立つように変わっていきます。
フラミンゴの名前の由来は諸説ありますが、
ラテン語でflamma(炎)意味する説があるようです。
なるほど。
そう言われてみたら、フラミンゴが集団で舞い踊る姿はまるで炎が揺らめいているようです。
寒いなかでもじんわりと温かい気持ちになりました。
動物専門員 あお
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2024年11月03日
動物専門員の日常#14 動物の体重をはかる集い~想定外だったシロフクロウの大きさ~
みなさん、こんにちは。最近、何か想定外の出来事はありましたか?
SNSや生成AIが私たちの日常に溶け込んできて、実際に体験をしなくてもいろいろな情報を簡単に手に入れられるようになりましたよね。何か知りたいことがあれば、すぐに答えにたどり着けるし、物事の予測もしやすくなったと感じることもあります。
でも、飼育業務はそんなデジタルの便利さとは違うような気がします。
動物たちのことを深く理解するには実際に関わり、観察することが欠かせません。
私は最近、想定外だと感じることがたくさんありました。
今回は、王子動物園で開催される“動物の体重をはかる集い”にちなみ、
その内の1つであるシロフクロウのヒナの大きさを紹介したいと思います。
屋外展示場にて、シロフクロウのオスを1羽、メスを2羽飼育しています。
今年の6月にメスの1羽が6つの卵を産卵し、6月下旬にはそのうち5羽が孵化し、現在は4羽が成長しています。
▼7月初旬
▼9月下旬
シロフクロウファミリーの子育てや屋外展示場における暑さ対策、今後のヒナについてはボリュームたっぷりな内容になってしまうのでどこかの機会でまた紹介をしますね。
さて、私にとって想定外の出来事。
それは“シロフクロウのヒナの大きさ”です。シロフクロウを含むフクロウ類は同じ巣で産まれた兄弟でも体の大きさに著しい差が見られることが知られています。ある時期に数日おきに卵を産むのですが、フクロウ類の母親は最初の卵を産むとすぐに温め始めるため、その一時期に産んだ卵のうち、最初の卵と最後の卵とでは、孵化する時期がかなり異なります。これは“非同時孵化(ひどうじふか)”と呼ばれ、確実に子孫を残すための戦略だと考えられています。
今回、誕生したヒナたちも体の大きさが全く、異なりました。
1号(最初に孵化した個体)と5号(最後に孵化した個体)の大きさの差は
パッと見、約4倍もあります!!(/・ω・)/
まさに、想定外!
餌が少なくなったときに初めに産まれたヒナが後から産まれたヒナを食べてしまうこと(いわゆる兄弟殺し)があるとも言われており、実際に体の大きなヒナが小さなヒナの上に乗りあげたり、突いたりしていた時期もありました。野生のシロフクロウの生き残りの厳しさを垣間見たような気がしました。
▼7月初旬の様子
また、この時のヒナの成長スピードは、めちゃくちゃ速かったです。
休み明けにシロフクロウ舎でヒナを確認をするたびに、来る日も来る日も驚いていました。
ほんと、想定外!
それもそのはず、一生の間で最も攻撃に弱いこの時期をヒナたちは短時間のうちに通り過ぎないといけません。ただただ食べて、眠り、大きくなることを繰り返していました。
▼腹ばいになって寝るヒナ
▼ふわふわの綿羽で覆われたヒナ
さて、11月現在、綿羽は生え変わり成鳥のシロフクロウと同程度の大きさにまで成長しています。
最近、取り組みを強化しているのはハズバンダリートレーニングを利用した体重測定です。捕まえて体重を無理やり図ることもできるのですが、できるだけ負担をかけずに行うために、ヒナたちに協力してもらいながら体重を測定しています。
▼体重測定の様子
一見、簡単に乗っているように見えるのですが、シロフクロウにとって体重計は未知の物体です。恐怖心を植え付けないように少しずつじっくりと時間をかけて慣らしていくことが大切です。ただただひたすら、辛抱強く待ちます。
ヒナ全羽への体重測定のためのハズバンダリートレーニングは、
実はまだ、未完成の状態です。
すぐに体重を測れるヒナもいたら、体重計を警戒し全く近づいてもきてくれないヒナもいます。個性はそれぞれだな~と感じながら、取り組んでいます。
なので、体重測定をしている様子を見かけたらそっと見守ってくれると嬉しいです。
(※ヒナの個体識別のために、羽根の一部に食紅を付けています。)
動物専門員 あお
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2024年07月10日
動物専門員の日常 #13 特別篇 “視力が低下したアシカへのハズバンダリートレーニング”
みなさん、こんにちは。
今日は特別編と題して、私ではなく他の動物専門員の取り組みを ちょっとアカデミックに紹介します(/・ω・)/
動物園における動物たちの飼育管理というのは、すごくバリエーションが広くてそして奥が深くて、何から紹介しようかをいつも迷うのですが最近、一緒に仕事をする中でそのトレーニングスキルの高さに思わず鳥肌が立つことがありました。
それは、カルフォルニアアシカ“カイト”のハズバンダリートレーニングです。
カルフォルニアアシカ(以下:アシカ)は大きく発達した眼球を持っているため、眼科疾患(角膜炎や白内障など)が多く見受けられます。個体同士の闘争や飼育環境下でのアクリルガラスや外壁との衝突、飼育水の種類、日光(特に紫外線)の影響、そして人間と同じで加齢も要因として挙げられます。これらの要因が複合的に重なり合い、アシカたちの眼球は傷つきやすく疾患が発生しやすいのです。
王子動物園で飼育をしているアシカたちも眼科疾患は例外ではなく、特に“カイト”(13才♂)は両目がほとんど見えていない状態でした。 “カイト”にとって住み慣れたアシカ池は日常生活を送る分には問題はありませんが、適切な獣医療を受けてもらうこと、生活の質(quality of life)の向上を考慮に入れるとトレーニングは不可欠です。
通常は正常な視力を持っている内にトレーニングをつくり、継続をすることが多いです。カイトの場合、視力が低下する前にターゲット棒や点眼など部分的にトレーニングをしていましたが、しばらく中断していました。そのため、ほとんど目が見えない状態でイチからトレーニングを作り上げる事になりました。
そこで、注目したのが視覚以外の他の感覚です。アシカは餌を食べるときに、主に視覚と口周りのヒゲ(感覚毛)を使っています。目を使って泳いでいる魚を発見し、感覚毛である口周りのヒゲで水の流れをキャッチし、魚を捕まえると考えられています。
そのため、たとえ目が見えなくても口元のすぐそばに餌の魚を持っていくと食べることができます。
ご褒美の餌(強化子)を与えることはできるので、ここから望ましい行動の形成を行っていくことにしました。
まずは、トレーニングの基本からです。 指定された位置に留まる基本姿勢の維持と吻タッチです。吻とは動物の鼻先のことで、手のひらやターゲット棒に鼻先をタッチしてもらいます。この吻タッチを覚えてもらうことによって、その先の行動形成のステップに進むことができるようになります。ただ、“カイト”の場合、ほとんど目が見えてないので吻タッチをするべきターゲット棒の位置が分からないことが課題でした。
「カイトにとって、どうすればターゲット棒の位置が分かるようになるのか」
考えぬいた末に、餌の魚の汁をぬったターゲット棒を使ってみることにしました。嗅覚を使って正確なタッチポイントを見つける作戦です。この嗅覚を利用する方法をきっかけに、カイト自身が正確にターゲット棒の位置を理解することができました。このターゲットトレーニングを基本とし、さらに聴覚を利用したトレーニングを組み合わせることによってカイトの反応が大きく変わりました。トレーニングのステップを1つずつ積み重ねることで今では、吻タッチ以外にも口周りのヒゲにターゲット棒を沿わせて行う伏せの姿勢やターゲット棒でトントンと地面を叩く場所に移動することなど様々なことが可能となっています。
▼ハズバンダリートレーニングの様子
これらができるようになったおかげでカイトへ行うことのできる検査や処置の種類(触診による身体検査、口腔内確認、点眼、傷への消毒など)も格段に増えました。 また、現在は獣医師と連携して採血のトレーニングに取り組んでいます。定期的に採血ができるようになると、その血液を検査することによって見た目では判断しづらい病気の早期発見につながります。
さて、今回初めて他の動物専門員の取り組みを紹介してみましたがいかがでしたか?
ハズバンダリートレーニングは数多くある飼育管理手法の1つです。
これは動物が覚えたらずっとできるようになるといった単純なものではなく日々、動物の状況を見極めながらトレーニングを積み重ねて継続していくことがなにより大切で、腕の見せ所でもあります。“動物専門員や飼育員が何のために懸命にトレーニングを行っているのか”“それを実施することで動物たちの生活や健康管理にどのように還元できるのか”
を知ることでもっと王子動物園の動物たちのことやその取り組みに興味を持っていただけると嬉しいです。
あ、最後に1つだけ・・・。 トレーニングを行っている動物専門員や飼育員を見かけたときは、 声をかけずにそっと見守ってくださいね。
よろしくお願いします(`・ω・´)ゞ
動物専門員 あお
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2024年06月05日
動物専門員の日常#12 “リスと小鳥の森~繁殖に向けての取り組み②~”
リスと小鳥の森~繁殖に向けての取り組み~の続きの話です。リス担当に新しく与えられたミッションは“ニホンリスたちが安心して出産・子育てができる環境を整えること”でした。
ニホンリスは繁殖や休息・ねぐら用に樹上で小枝を組んだ球状巣を作ったり、樹洞を利用します。
“リスと小鳥の森”でも球状巣がつくられることはあったのですが、残念ながらそこで繁殖や子育てをすることは今までありませんでした。
▼樹上につくられた球状巣
これまでの歴代リス担当の経験則から、リスたちが安心して出産や子育てできるようにサポートした方がいいのではないか、もっと背の高い場所に安定した巣箱があった方がいいのではないか、との考えがありましたので、巣箱を増設することになりました。
もちろん、巣箱は飼育員の手作りです(/・ω・)/みんなで頑張りました。▼完成した巣箱はこちら
最初は1つ作るのに30~40分ほどかかっていたのですが、作り続けることでどんどん、どんどんスピードアップをしていきました。
恋のシーズンが始まる春までに完成させたいという想いもありましたので、昨年の秋~冬頃は来る日も来る日も私は巣箱をつくっていたような気がします。
▼設置した様子がこちら(おー!圧巻!ちょっと嬉しいです!!)背の高いところでも巣箱がぐらつかないように足場は増設工事してもらいました。
結果、総勢74個の巣箱があります(`・ω・´)ゞ
でもね。全部をニホンリスたちが使ってくれるわけではありません。
もちろん人気の巣箱と不人気の巣箱があります。人気の巣箱には、せっせと集めた古い巣材(杉の皮やシュロ)がぎゅうぎゅうに積もって地層のようになっています。またニホンリスは貯食行動をするのですが、巣箱がその貯食場になっていることもあります。
(貯食・・・冬などのエサが少ない時期に、土の中や木の洞などに餌を隠す行動)
利用頻度が高い人気の巣箱はどういった条件なのかはいまいち、分かっていません。
サイズなのか、高さなのか、位置なのか、ぐらつきなのか。
観察とデータを取り続けることで分かってくるような気もします。
▼昨年、人気だった巣箱の中身はこちら
さて、新しく作ってくれた巣箱をリスたちは使ってくれるのでしょうか?
次回、紹介します。お楽しみに。
(1枚も動物の写真がでてこないブログになってしまいました…笑)
動物専門員 あお
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2024年05月26日
動物専門員の日常#11 “リスと小鳥の森~繁殖に向けての取り組み①~”
みなさん、こんにちは。
春は過ぎ去り、初夏の季節がやってきました。
暖かすぎる日々が続きますね。
王子動物園で“春”といえば、桜の通り抜けが有名ですが
個人的にとっても待ち遠しかったことがあります。
それはニホンリスの恋のシーズンの到来です。
ニホンリスは名前の通り、日本国内だけに生息する固有種で本州・四国の平地から低い山を中心とした森林地帯に生息しています。
主に樹上で暮らし、昼間も活発に動きまわり冬眠期間はありません。
初春から夏にかけてはニホンリスたちにとっての恋のシーズンで1産あたり2~6仔を出産します。
王子動物園では“動物とこどもの国エリア”内にリスと小鳥の森があり、
そちらのエリアでニホンリスを飼育しています。
昨年“リスと小鳥の森”内の最も広いスペース(通称:森内エリア)で初めてニホンリスの営巣と繁殖を確認することができました(/・ω・)/
昨年、巣箱で産まれたときの写真がこちら▼
かわいすぎます!
今年も引き続き、ニホンリスの営巣と繁殖を目指すべく“リスと小鳥の森”を少しずつアップグレードしてきました。
「ああではないか」「やっぱりこうした方がいいのではないか」とみんなで悩みながら進めてきましたので
ブログで少しずつ紹介したいと思います。
お楽しみに~。
おまけ▼
この写真は“動物とこどもの国”エリアの約33年前のポスターです。
コアラ舎のスタッフ用の控え室に長い間、掲示されていたため色あせていますが
オープン当初のわくわくした感じが伝わってきます。
動物専門員 あお
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2024年05月15日
動物専門員の日常#10 カピバラ“アサヒ”の体重測定
“アサヒ”・“キリン”・“エビス”
2017年10月18日に王子動物園で誕生したカピバラの名前です。
当時、担当していた飼育員はお酒が大好きでビールシリーズで命名したらしいとか。
カピバラなのに“キリン”と名付けたことが当時、話題になったらしいとか。
担当になると今までの話をたくさん聞きます。
今日はその中のカピバラ“アサヒ”の話です。
さて、みなさん。カピバラ舎の奥のスペースに、“アサヒ”が暮らしているのをご存じでしょうか?
“アサヒ”は“チャーシュー”・“メンマ”と姉妹にあたるのですが、闘争が起こりお互いのパワーバランスが崩れたため、数年前より奥のスペースで単独飼育をしています。
“アサヒ”にとっても健康管理を進める上で体重を定期的に測定をすることは大切なことです。
しかし、“アサヒ”は飼育員泣かせの一面があります。
それは、性格がスーパーウルトラ繊細なのです (´;ω;`)ウッ…
飼育員が2~3m近くを通っただけでも、ひゅるっ~~~と逃げていきます。
暖かい季節になり、最近は展示場にトカゲがよく現れるようになったのですが、
そのトカゲの動きにびっくりして飛び跳ねていました。
(驚くポイントはそんな所にもあるのね・・・と私も驚きました(´・ω・))
初対面のときに、これは手強いぞ~と感じていたのですが、こちらもただ黙って見ているわけにはいきません。
粘り強く、体重測定のためのハズバンダリートレーニングに取り組むことにしました。
まずは、体重計に載せるオレンジ色の板に慣れてもらうこと(脱感作)からです。
“アサヒ”のスペースに早速、置いてみました。
ゆっくりと音を立てないように慎重にオレンジ色の板を置いてみたのですが
見知らぬものがあることに気づき、その場所を警戒して距離をとるようになりました。
慎重派の“アサヒ”らしい反応です。
負荷をかけすぎることなく、警戒心を解くために、最初は数時間、その次に半日、最後に1日中設置というステップを少しずつ進めていました。
その間、オレンジの板を覆い隠すように竹を置いてみたり(/・ω・)/
青草をまんべんなく、広げてみたり(-ω-)/
大好物のブドウを置いてみたり(´・ω・`)
少しずつ少しずつ、“アサヒ”の生活にこのオレンジ色の板の存在を慣らしていきました。
そんな日々が続いていたとき、急にオレンジの板の上に前肢を乗せて青草を食べてくれるようになりました。
とっても嬉しかったです。
喜びも束の間。
両前肢を乗せて食べてくれる所までは着実に進んだのですが
それから先の“後ろ肢を乗せ、完全に台の上に乗る”というステップの兆しが一向に見えず、
ここから、さらに時間がかかりました。
(見知らぬものの上に乗るのってそりゃ、怖いですよね・・・。)
その後、やっと(;_;)/~~~
“アサヒ”がオレンジ色の板に完全に乗って青草を食べてくれるようになりました。ここまで辿り着くのに約2か月かかりました。
“チャーシュー”、“メンマ”と同じように、“ハンドサインで体重計への乗り降りができたらいいのですが、“アサヒ”の繊細な性格や年齢、飼育管理の優先順位を考えるとまず必要なことは今の体重を知ることです。
そこで、こっそりとオレンジ色の板の下に体重計を入れ
いつも通り青草を置き、測定をしてみました。
「乗ってくれるかな・・・、どうかな~」とドキドキしていたのですが、
無事に乗ることができました(`・ω・´)ゞ
体重は48.1kg(5月地点)
餌量や投薬の調整に活かしていきたいです。
“アサヒ” よく頑張りました。
ありがとう。
動物専門員 あお
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